辻/ISBN:4103192070

読者のことを意識していないような,意識しすぎているような,「めぐる」をめぐる評である。

この本の辻は、めぐられない。
めぐりながら、近づいてゆこうとするかに見える時もある。けれど、そうかんたんには、めぐらせてくれない。
めぐらせてくれない、とは、待ちぶせさせてくれない、ということでもある。
先が、めぐるべきそのもの自体が、ないのかもしれない。ないように書くのは、ひどく難いことだ。ない、ということを書くのではなく、あるのだかないのだか、どちらでもあり、そもそもあるもないも大事のことではなく、それよりも辿っている道のつづきのありさまやまわりの気配や子細、それらにかなめがある、そう思わせたとたんに、けれどやはりそこに何かがありありと在るように唆す。
 唆されるほどに、嵌まりこんでゆく。弁えられなくなってゆく。辻を過ぎ、戻れなくなり、けれどそこはいまだ辻でありつづける。なんともすさまじい書きようである。